N°6 ガムラスタンのホテルの思い出
ガムラスタン。ストックホルム中心部にある旧市街。中央駅からも徒歩10分の観光地である。
春はバルボリ祭や夏を先取りするスウェーデン人達、夏は観光客で路地が人でいっぱいになり、冬はノーベル賞やクリスマスマーケットで賑わい、そして今は、、、完全オフシーズン。
どこか寂しげな表情ではあるが、ガムラスタンは雪景色が最も似合うのではないかと思っている。
まだ私が音楽留学でスウェーデン南部に住んでいた頃、母がスウェーデンにひとりでやってきた。もちのろんで、父と兄は仕事である。
ヨーロッパ初の母にヨーロッパらしい気分を味わってもらおう!と、私はガムラスタンのホテルを予約した。ひとつめのホテルはヨーロッパ各地にあるチェーンで、外見は歴史が溢れているのに中は北欧モダン、部屋はツインベッドで広く、レンガの壁やスタイリッシュなデザインのテーブル、大きなテレビ、シャワールームも広かった。
そのホテルは翌日から満室で連泊できなかったため、2泊目以降、母はガムラスタンが見渡せて地下鉄駅から徒歩1分、前日より高額なホテルを予約していた。外見は前回同様、建物は古いが壁がピンクでドアからもヨーロッパの雰囲気が溢れ、チェックインの受付も美しく、わくわくしていた。
しかし部屋に案内されると、、
狭い部屋には、殺風景なシングルベッド一台と天井から吊り下げられた昔の立体上テレビ。窓にはカーテンがついていない。そしてトイレ、シャワーは一体どこに。。。?廊下に出てみると、シャワーとトイレは共同です、という表記。ここ、バックパッカーホステルじゃないよな、、ホステルの値段の10倍くらい払ってるんですけど。。。受付の人に聞いたが確かにここである。
この日以降は、空室がないのと高額だったこともあり、私はストックホルムに住む友人宅に泊まることになっており、母をひとり残していくのも心配だがもう夜も遅かったので、母には頑張って1泊してもらうことにした。
翌日ホテルに迎えに行くと、母は語りだした。
ひとりでドキドキしながら夜シャワールームの前で待ってたの、何回行っても誰かが使っているから待っていようと思って。そしたら、ソーリー!といいながら可愛い女の子がタオル一枚巻いた姿で出てきて、そのまま廊下を歩いていった!朝食はたぶんスウェーデン語で、どーのこーの!、、
と、なんてことないようなエピソード。
ワンルームで個人シャワーは付いていたものの、スウェーデン人達20名と学校寮の一軒家をシェアしていた私にとっては、タオルで美人がうろうろ事件は日常茶飯事の出来事であったが、そういう経験も母にとっては驚きだよなぁと思ったのを覚えている。同時に、母も、ひとりで海外で暮らすとこうやって強くなっていくんやね、と私の日々の闘いを垣間見れて嬉しそうにしてくれたことを覚えている。
その後、私は受付に行き翌日からの宿泊を全てキャンセルにしてもらったが、キャンセル料はほとんど戻ってこなかった。受付のおじさんに事前予約と違う状況だったことや、もっといい部屋はもしかしてあるのか?等、聞きたいことはあったが、当時の私は語学だけでなく、不満を言うエネルギーや精神を持ち合わせていなかった。(今は旅行先のホテルに関しては、不満があればまず必ず聞く。)
しかし、未だに母と北欧旅の思い出話をするときは、私が忙しかったため母にひとりで朝食を買いに行ってもらったこと、フィンランドのホテルが探せず人に聞きまくったこと、電車内トイレのロックのかけ方が分からずおばちゃんに開けられてしまったこと、油ギトギトのポテトだけが出てきたレストランのこと、等である。
今もまだ、外国人として母国語でない国で生活や仕事をする中で、戸惑いや失敗や苛立ちがある。
しかし、これら全てが何年か後に思い出となり笑い話となり、そして日々の自分を成長させてくれているのだと信じることで、明日もまたマイナス5度のストックホルムで仕事を頑張ろうと思えるのである。
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